空気時計制作工房

母屋では日記と詩を公開中です。

NOCTURNES(閑話)

NOCTURNES0〜7をリメイク終了。

ここで【それ】の問題発生。
あまりにも唐突に【それ】を表記しても
どうなのか? 思案中

NOCTURNESを制作していた頃
突然 書きたくなったテーマ【それ】

【それ】第一章「無から生じた有」

【それ】は生まれた
母もなく 父もなく
ゆえに 兄弟もなく
【それ】は生まれた

【それ】は 
自分が生まれたという
意識を持ちながらも
刹那にも満たない
実体なき存在といえた

ある日 【それ】はふと思った
自分は一体 何者なのかと
時の流れでさえも 【それ】を既定しない
空間軸も 【それ】に座標を与えない

【それ】は意識のままに
時空を超えて移ろいはじめた・・・

しかし【それ】を認識するものはなく
誰も【それ】を呼び止める者もなく
悠々たる天壌 遼々たる古今は
潰え去っていくばがりだった

大気の中の透明な蟠りを
もし 認識できたとしても
声で 呼び止めようとも
聞く耳すらないのだから

永劫の時を 無量の空を
【それ】は 移ろい続けた

「お前は何者だ?」

桜の根元なる一枚岩
一枚岩の上に座す男

【それ】をはじめて認識した者
それは無念無想に至った者
【それ】に近しく 【それ】を求める者

「お前は何者だ?」

【それ】の意識に直接 問いかける者

だが 【それ】には
その問いに答えるべき
言葉というものがなかった

「お前は何者だ?」と
問うた瞬間に
その男の無念無想は
幾度となく 頓挫する

やがて 男は問うことをやめる

純粋で刹那以上の
無念無想が訪れた時
男と【それ】とは
重複するベン図状となった

「お前は何者だ?」

(・・・何者でもなく 言葉すら持たぬもの)

「言葉すら持たぬものが なぜに言葉で答える?」

(・・・あなたの言葉を借り)
(・・・あなたの言葉で答え)
(・・・あなたに言葉を返す)

「借りたものは返す。それは律儀なことだ。」

(・・・借りたものを返さぬままに)
(・・・あなたの友はあなたのもとを去り)
(・・・あなたは商人でなくなった)

「私の言葉を借りるものよ
 お前も返さずに立ち去ればいいのだ。」

(・・・一日なさざれば一日食らわず)
(・・・三日なさざれば三日食らわず)
(・・・一年なさざれば一年食らわず)

「この岩の上で はや一年
 座禅を組み はや一年
 もう 言葉はいらぬ・・・」

(・・・私は時空を移ろうもの)
(・・・私は言葉を借り 言葉を返した)
(・・・はじめて耳なるものを知り)
(・・・はしめて音なるものを聞き)
(・・・はじめて目なるものを知った)
(・・・だが 何も見えない)

「それは 私が目を閉ざしているからだ
 だが 耳があろうとも 目があろうとも
 真実を聞き分け 真実が見えるわけでもない
 耳をふさぎ 目を閉じ 
 はじめて聞こえ 見えてくるもの
 私はそれを捜している・・・」

(・・・しばし その耳と目を借り)
(・・・しばし 私は移ろう)

刹那の静寂 【それ】は男に告げる

(・・・あなたには目も耳も必要だ)
(・・・あなたには言葉も必要だ)

「何故に そう言葉を返す?」

(・・・二年後 あなたは大願成就する)
(・・・私は時を移ろい見てきた)
(・・・その時 耳も目もなければ成就しない)

「時空を移ろえるのならば 
 ひとつ聞く
 桜の木の根元に座す私よりも
 菩提樹の根元に座すあの方に
 お前は出会うべきではなかったのか?」

(・・・出逢いとは必然)
(・・・起こりえた偶然のうちで)
(・・・最善なる必然)
(・・・それが現実)
(・・・邂逅すべくして邂逅した)

「え・に・し だな・・・
 これも 何かの縁だ
 私の言葉を写し取っていけ。」

(・・・あなたの言葉そのものは写し取れない)
(・・・あなたの語彙を写し取った)

「ならば また 移ろうがよい。」

(・・・耳と目 確かにお返しした)
(・・・語彙に問うものがいる)
(・・・わたしは 行く)

1880年6月27日以前の ある胎児の夢へ

この作品のあと
■【それ】第一章「無から生じた有」

■【それ】 ■第二章「欠ける有」

■【それ】第三章「名前のないもの」

■ 【それ】第四章 留まるもの

■【それ】エピローグ

【それ】INTERLUDE

とシリーズ作となったのである。