空気時計制作工房

母屋では日記と詩を公開中です。

【それ】 ■第二章「欠ける有」


かつて自分であったものを
私は食べた
かつて人間であったものを
私は食べた


そして 私もまた
人間に食われた
私は また 人間として
生まれようとしている


生きとし生けるものの
それが 宿業なのか?
それにしては
人間は のさばり過ぎ


私は 生まれる
今度は人間として・・・


【それ】を呼ぶもの
胎児の夢
1880年6月下旬
アラバマ州の北部


輪廻転生のフラッシュバック
海から陸へ 陸から海へ
進化も退化も そこに至るため
失うことも得ることも
そこに至るため


何かを得ることよりも
何かを失うことの方が
悲しいに決まっている


失った何かを
取り戻すことよりは
失った何かのかわりに
何かを得ればいい?


「あなたは誰?」


「私の夢に・・・」


(・・・人 誰しもが見るいう)
(・・・胎児の夢を見ているのですね)
(・・・そして もうじき醒めるのですね)


「あなたは何?」


(・・・あらゆる空間に)
(・・・あらゆる時間に)
(・・・あらゆる時空に)
(・・・存在しながら唯一のもの)


「唯一のものが 今 なぜ ここに?」

(・・・言葉となる前の言葉を)
(・・・私の二番目の所有物を)
(・・・あなたが呼んだから)


「二番目?」


(・・・一番目は意識)
(・・・自分を捜し求める)


「すべての時間に存在するのなら
 私の過去も未来も知っているの?」


(・・・耳も目もない)
(・・・借りたことはあるが)
(・・・耳も目もない)


「それでは 何もできない」


(・・・意識と言葉となる前の言葉だけ)
(・・・それだけでも 無から生じた有)
(・・・存在し 存続し 意欲する)


「私の耳と目を貸してあげるから
 私の未来を教えて・・・」


「私は また かつて自分であったものを食べ
 私は また かつて人間であったものを食べ
 そして そうして どうなるの?」


(・・・それを知って どうするのですか?)
(・・・これは胎児の夢 生れ落ちたら忘却の彼方)


「それでも いいの
 私が私であることを
 私は全うしたいだけ」


(・・・しばし その耳と目を借り)
(・・・しばし 私は移ろう)


刹那の静寂 【それ】は胎児に告げる


(・・・種は命の水で萌芽する「W・A・T・E・R」)
(・・・言葉になる前の言葉 語彙の種を)
(・・・あなたにあげる)


「あなたの ふたつしかない所有物のひとつを?」


(・・・無から生じた有)
(・・・有から生じた無)
(・・・私はそれを会得している)
(・・・種は いくつも つくれる)


「それが 役に立つのね?」


(・・・それは わからない)
(・・・種が萌芽しても)
(・・・育む大地が必要となる)


「私は もらうだけ?」


(・・・あなたの失うものが)
(・・・わたしに宿る)
(・・・さあ 目覚めの時が来る)


1880年6月27日
胎児の夢は 忘却の彼方へ
【それ】は また 移ろう