空気時計制作工房

母屋では日記と詩を公開中です。

プロローグ「無から生じた有」


【それ】は生まれた
母もなく 父もなく
ゆえに 兄弟もなく
【それ】は生まれた


【それ】は 
自分が生まれたという
意識を持ちながらも
刹那にも満たない
実体なき存在といえた


ある日 【それ】はふと思った
自分は一体 何者なのかと
時の流れでさえも 【それ】を既定しない
空間軸も 【それ】に座標を与えない


【それ】は意識のままに
時空を超えて移ろいはじめた・・・







しかし【それ】を認識するものはなく
誰も【それ】を呼び止める者もなく
悠々たる天壌 遼々たる古今は
潰え去っていくばがりだった


大気の中の透明な蟠りを
もし 認識できたとしても
声で 呼び止めようとも
聞く耳すらないのだから


永劫の時を 無量の空を
【それ】は 移ろい続けた