空気時計制作工房

母屋では日記と詩を公開中です。

言葉ありせば(大牟田線物語 エピローグ)No.707

君に「一番好きな言葉は何ですか?」と
僕はたずねたのです


君は具体的言葉を 
何ひとつあげなかった


君が具体的な言葉を
何かひとつでも あげてくれたなら
何年かかってでも
詩集をひとつ 編み上げるつもりでいたのです


それは同時に
私が詩集を贈った女性とは
別離がおとずれるというジンクスを
ふまえた上だったのです


少なくとも 詩集が編み上がるまでは
別離はおとずれないというジンクスを
ふまえた上だったのです


そのジンクスも
君が人の道を逃れて遠いところへ
逝ってしまったので 覆されたのです
手渡されることのない詩集を残して


悲しい性(さが)だね
未だに君が一番好きな言葉を
僕は待っている さがしてる

それでも大牟田線は
今日も ドラマをのせて
走り続けている


(多少の映像後、「私鉄沿線」野口五郎あり)