空気時計制作工房

母屋では日記と詩を公開中です。

昔々のちょっとあとの話しです。
雲は風と結婚しました
風は雲を いろいろなところへ いざなってくれたから
雲は風に いろいろなところへ いざなわれたから
やがて たくさんの子供たちが 生まれました


子供たちは 風や雲となって 
人間たちに たくさんの うるおいをあたえました
新しい雲を 地球のすみずみへ いざなうために


風は 毎日 働き
新しい雲を 生むために 
雲も 毎日 がんばりました
子供たちも がんばりました
でも 時間がたつにつれて 雲の夫に対する愛情は
まるで お父様からプレゼントされた月のように


欠けはじめました


「ああ あんなに愛していたはずなのに
 あんなに愛していたから 子供たちもうまれてきたのに
 私は 一体 どうしてしまったのだろう。」
雲は悩みました 悩みながら 地球のまわりをまわりました 


やがて 雲の夫に対する愛情は
まるで お父様からプレゼントされた月が新月になるように
消えうせてしまいました


「ああ あんなに愛していたはずなのに・・・」
いっそう雲は悩みました 


そして 雲は もっと大変なことに 気付きました
子供たちに対する愛情も 消えうせていたからです
雲は 来る日も 来る日も 泣きました
涙は 洪水となって 大地を押し流しました


人間たちが 耕した畑も 畑のそばに住むための家も
全部 押し流してしまいました
人間たちは どうしようもなく 泣き叫びました
人間たちは お互いをののしりあい 憎みあいました


雲は それを見て 泣くことだけは なんとか やめました
でも 心に中では 泣き続けたのです


次の日 雲は 夫のいない 夜の国にいました
夫もお父様もいない世界で お母様の海とお話するためです


「お母様 私って なんて駄目な娘なのでしょう
 あんなに愛していた夫や子供たちなのに
 欠けゆく月のように 消え去る月のように
 愛情というものをうしなってしまいました。」
 私も夫も 子供たちのために 一生懸命 がんばってきました
 人間たちに うるおいを あたえてきました
 それが わたしの役目であり 生きがいだったから。
 でも 私は疲れてしまいました。」


すると海は静かに言いました


「そう あなたは疲れたの あなたは自分でかげりを見せたの。
 お父様がプレゼントしてくださった月の形を あなたは覚えていますか?」


「球だったわ。」


「そう 月は球なの。月の形はずっと球なの。月はいつも満月なの。」

 
「それが どうかしたの?」


「月はいつも丸いのに 欠けて見えるのは なぜ。
 月はいつも丸いのに 消えてしまうのは なぜ。
 それは 地球自身のかげり 自分自身のかげり。
 月はいつだって丸い
 あなたの風に対する愛情も 子供たちに対する愛情も
 あの月と同じ
 ただ それが欠けていくように 見えたり 思えたりするのは
 自分自身のかげり。」


「私のかげり?」


「そう 欠けゆく月は やがて 満ちる月
 引き去る波は やがて 寄せ来る波
 愛情も 情熱も それそのものは変わらない
 ただ 冷めたり 消えうせたりするのは
 自分自身のかげが そう感じさせているだけ。
 ご覧なさい 人間たちを。」


海のむこうから 太陽がそのほほえみを あらわしました
風もやってきました


大地では 人間たちが また 畑を耕し 家を建てようとしていました
人間たちの 愛情も 情熱も ほんとうの月のように 丸かったのです


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「大地1」は、25年前の作品。昨年、某ブログで公開したところ
続編が見たいというリクエストがコメントされたので
2時間で作成した「大地2」です。
大地1」は題名をクリックしてください。
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